ゴミと傾聴
多くのカップルにとって怒鳴り合いのけんかはとても辛いものです。なぜけんかが始まったか覚えていないほど取るに足らないことがきっかけの場合も、過去の浮気など深刻な問題で始まることもあります。きっかけが深刻であろうとなかろうと、怒鳴り合いのけんかはエネルギーを使う割には、問題の解決やお互いの理解に至ることがあまりありません。なのでその後のひどく消耗した感じがしますし二人の今後を考えると不安にもなります。カップルカウンセリングを受けにくるカップルの多くが、何度も無益なけんかを繰り返した後にやってきます。私もそんなけんかをしたことがありますから、どれほど腹立たしく、辛く、がっかりさせられるか理解できます。
英語でよく言われる言い方ですが、ここで良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースはこうしたけんかを解決するのはシンプルだということです。悪いニュースはだからと言って解決は簡単ではないということです。でもここまで読まれたらその解決方法を知りたいと思われるでしょう。それはディープリスニング(傾聴)です。
もしかすると「あんなどうしようもない奴の傾聴なんてしたくない、あいつがまず私の言い分を聴くべきだ!」と思われるかもしれません。その気持ちは理解できますし、実はその意見にほぼ同意します。あなたのパートナーが「どうしようもない奴」かどうかは情報がないので判断できませんが、あなたの言い分に耳を傾けるべきというところには賛成です。ただし残念ながら相手に無理やりあなたの言い分を傾聴させることはできないので、まずはあなたがあなたの声をより深く聞きとることから始めてほしいのです。
振り返ってみましょう。あなたが声を張り上げたにもかかわらず、あなたのメッセージはパートナーに届きませんでした。これは相手が「どうしようもない奴」だからでしょうか?または二人はお互いに理解しあえないので一緒にいるべきでないという意味でしょうか?もちろんその可能性もあります。でもこの極端な結論に至る前に「私が本当に伝えたいことが分かっていないので、相手にうまく伝えられなかった」という可能性を考えて欲しいのです。
例えば、あなたのパートナーがゴミ出しを忘れていたことにイライラして、「また忘れたの?」と怒ったように言ったとします。するとパートナーは防衛的になって「後でやるつもりだったんだ 」と無愛想に返事をしました。次にあなたは声を荒げてこう言うかもしれません。
「でもゴミが匂っているでしょ。それにこの前はゴミ収集車に間に合わなかったじゃない。」こう言われて相手は「ごめん、次から気をつけるね」と言うのではなく、ため息をついて「ただのゴミぐらいでうるさいな。」と言いました。これでは口論はエスカレートするばかりです。
けんかの後、あなたはなぜ二人はゴミ出しのようなつまらないことのために大げんかをしたのでしょう。それはゴミがより深い問題の象徴だからです。日常のあなたはゴミに注意を向けていますが、その背後にもっと大事な問題が隠れていて、ゴミへのイライラはそこからやって来ていることが多いのです。ですから、このようなけんかを防ぐには、このより深い問題を理解することが欠かせず、そのためには自分の声に耳を傾ける必要があるのです。
そのためには次のようなことをしてみるといいでしょう。一人になれる心地よい空間を見つけて、自分のためだけに最低でも15分くらい時間をとってください。その際、気づいたことや感じたことを書き留めるために、ノートとペンを置いておくとよいでしょう。少し深呼吸をして、ゴミ出しを忘れられたことがなぜ自分をそれほど苛立たせたのか自分に問いかけてみてください。これは自分との率直な対話です。ですから「そんなことでイライラするなんて」などの判断は脇に置いて、ゴミにイライラする部分への思いやりと好奇心を持つようにしてみましょう。
例えば、あなたがすでに一杯一杯で、忘れられたゴミを見るとまたやることが増えるとパニックになったからかもしれません。もしくはパートナーがこれまで何度も約束を破ってきたので、ゴミ出しを忘れたことは裏切り行為のように感じられたのかもしれません。あるいは、自分がパートナーよりも家事や育児の負担が多く残されたゴミが不公平の象徴のように感じられたかもしれません。もしかするとあなたの中に家を完璧にきれいにしておきたいという強迫的なプレッシャーがあるからイライラしたのかもしれません。
もう気づかれたと思いますが、これらの答えはゴミに対するあなたの反応の根底にある核心的な問題を指し示しています。それが分かると次に何をすればいいかより良いアイディアが浮かびやすくなります。もし自分がやるべき仕事の量に圧倒されていることが原因なら、それをパートナーに伝えて助けを求めるといいかもしれません。または自分が他人にノーと言えず仕事を抱え込みすぎていることが原因だと気づき、他人にノーと言う練習をするという選択をするかもしれません。
あるいはあなたの反応の根底には、パートナーに対する不信感が横たわっていることに気づき、パートナーと話し合うか、カップル・カウンセリングを受けることを決意するかもしれません。完璧への執着のせいでなんでもコントロールしたくなるのだとわかったら、その執着がどこから来たのかを自分に問うてみてもよいでしょう。
声を張り上げても、残念ながら核心的な問題にはたどり着けません。そして核心的な問題を放置しておくと、自分の機嫌が悪くなったり、イライラしたり、不信感を抱いたりして、大げんかの温床になりかねません。言ってみれば取り上げられないけど、そこに横たわる核心的な問題は人間関係にとって「臭いゴミ」になってしまいます。しかし、深く正直に自分の声に耳を傾ければ、本当のゴミはどこにあるのか、どう対処すればいいのかのヒントが得られるでしょう。
もちろん、これだけでパートナーとの問題が解決しないかもしれませんが、自分に対する新しい視点を得られるはずです。そうすると、パートナーへの伝え方が変わっていくでしょう。さらに相手にはどんな核心的な問題があるかに興味がでて、相手に耳を傾けてみようという気持ちになれるかもしれません。 それを続けていけば、気がつけばただゴミに反応したときとは全く違う対応ができるようになるはずです。